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大阪地方裁判所 平成11年(ワ)12243号 判決

原告 株式会社アンダーハウスコーポレーション

右代表者代表取締役 立木祥治

右訴訟代理人弁護士 中北龍太郎

被告 近藤壮明

右訴訟代理人弁護士 藤原達雄

被告 尼崎剛

右訴訟代理人弁護士 久米川良子

主文

一  被告近藤壮明は、平成一三年五月二日を経過するまで、大阪府、京都府、兵庫県、滋賀県、奈良県及び和歌山県内において、自ら床下用防虫ネット及び床下換気扇の販売を行い又は右商品の販売を行うものと共同で営業を行い、もしくは第三者より右商品の販売業務の受託をしてはならない。

二  原告の被告近藤壮明に対するその余の請求及び被告尼崎剛に対する請求を棄却する。

三  訴訟費用は、原告に生じた費用の五分の一と被告近藤壮明に生じた費用の五分の二を被告近藤壮明の負担とし、原告に生じたその余の費用と被告近藤壮明に生じたその余の費用と被告尼崎剛に生じた費用を原告の負担とする。

四  この判決は、第一項に限り仮に執行することができる。

事実及び理由

第一請求

一  被告らは、いずれも近畿地方において、自ら床下換気扇及び床下用防虫ネットの販売を行い又は右商品の販売を行うものと共同で営業を行い、もしくは第三者より右商品の販売業務の受託をしてはならない。

二  被告らは原告に対し、連帯して金三〇〇万円及びこれに対する被告近藤壮明(以下「被告近藤」という。)については平成一一年一二月三日から、被告尼崎剛(以下「被告尼崎」という。)については平成一一年一二月九日から支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。

第二事案の概要

本件は、建物の床下に取り付ける換気扇や防虫ネットの訪問販売と取付工事を業務とする原告が、原告と販売代理店契約を締結した被告らに対し、販売代理店契約解約後競業禁止条項に違反したとして、販売代理店契約に基づき、競業禁止の不作為及び損害賠償を求めた事案である。

一  争いのない事実等

1  原告は、床下換気口に取り付ける換気扇や床下用防虫ネットの訪問販売と取付工事を業務とする株式会社であり、原告に入社した社員との間で同社員を原告の販売代理店とする販売代理店契約を締結して営業している。

2  被告近藤は、平成九年九月二日、原告に入社し、同月一三日、原告との間で販売代理店契約書を作成した。そして、平成一〇年五月三日、右契約書に基づく契約が解約された(甲二)。

3  被告尼崎は、平成一〇年一月一九日、原告に入社し、同年三月一日、原告との間で販売代理店契約書を作成したが、同年五月三日、右契約書に基づく契約が解約された(甲三)。

4  販売代理店契約書第八条には、販売代理店は、本契約が終了した後三年間は同種商品の販売をし、または、同種商品の販売業務を行う者と共同で営業を行い、もしくは、他社より同種商品の販売業務の受託をしてはならない旨及び原告が違反行為を発見した場合は販売代理店に対し当該販売行為又は共同営業行為もしくは販売受託行為の差し止め及び損害賠償を請求することができる旨が規定されている(以下「本件競業禁止条項」という。)。

二  争点

1  本件競業禁止条項の有効性

(被告ら共通の主張)

(一) 原告と被告らの間で作成された契約書は、形式的には販売代理店契約書となっているが、被告らには実質的には販売代理店としての独立性がなく、原告と被告らとの関係は、通常の雇用関係と異なるものではなかった。即ち、勤務時間に関しては、朝には定時出勤と朝礼への参加を義務付けられ、遅刻に対しては罰金の制裁があったり、夕方は終礼に参加しなければならないなどの拘束があった。また、原告は販売代理店の格付けを行っているが、格付けを決定するためにポイントシステムを導入しており、一軒の顧客に床下用防虫ネット四枚以上を販売すると一ポイントが加算され、一〇〇ポイントまでポイントが増えると主任補と格付けされたが、主任補以上に格付けされなければ床下換気扇の販売ができないなど、販売のノルマが課せられていた。

(二) 本件では、右(一)の実態を踏まえた上で、(1) 競業禁止条項によって守られる利益が正当なものであるかどうか、(2) 被告らが原告特有のノウハウを知りうる立場にあったかどうか、(3) 競業禁止の場所的範囲や期間が合理的なものであったかどうか、(4) 代償措置が講じられていたかどうかという点から見て、職業活動を不当に制限するものと言える場合には、競業禁止条項が公序良俗に反して無効になるものと解するのが相当である。そして、本件競業禁止条項は、(1) 原告の販売する床下用防虫ネットや床下換気扇には、原告の主張するような独自性はなく、どこでもだれでも購入できるものであり、また、販売できるものであること、(2) 被告らは原告から十分な教育を受けていないこと、(3) 床下用防虫ネットや床下換気扇が一般的な商品であることを考慮すると、競業禁止の範囲が限定されているとはいえないし、競業禁止期間三年というのも長きに失すること、(4) 原告の主張する月収は、販売代理店契約による販売活動が順調に行われたときの計算上の収益にすぎず、被告らが原告から社会保険や福利厚生面での恩恵を受けていないことも考慮すると代償措置としては十分とは言えない。したがって、本件競業禁止条項は、被告らの職業活動を不当に制限するものとして公序良俗に反し、無効である。

(被告尼崎固有の主張)

(一) 原告の販売代理店は、床下用防虫ネットの販売ノルマのほか、床下換気扇についても一軒につき三台販売することが目標とされており(ただし、一軒に対する販売台数は六台までとされていた。)、いわゆる代理店としての独立性がなかったことは明らかである。

(二) 原告の床下用防虫ネットと床下換気扇の販売をセットにして行う販売方法は、ポイントシステムと連動している点を看過してはならない。そして、歩合給とポイントシステムによって従業員が働かされる場合、ともすれば顧客に対して従業員が無理な勧誘を行うことは必然的なことである。このような販売方法は、顧客に対するサービスに結びつくものではなく、原告には保護すべき正当な利益はない。また、販売代理店には、主任補以上の格付けがあったが、被告尼崎は、一〇〇ポイントを獲得することができず、床下換気扇の販売をすることができないまま販売代理店契約を終了している。したがって、本件競業禁止条項が無効であることは明らかである。

(原告の主張)

床下に関連する業界は白蟻消毒を主業とする会社を中心とし、他にリフォームを行う会社等で形成されている。その営業スタイルは、ほぼ全て、電話でアポイントをとり営業をするか、訪問販売で直接物品を販売するかのどちらかとなっており、営業と施工の担当者は異なるのが通常である。これに対し、原告の販売方法は、まず、床下換気口に取り付ける防虫ネットを販売し、これによって床下の虫が出入りできる穴をふさぎ、他所からの侵入は不可能にする。そして、その後、それ以前に虫が侵入しているかどうかを調査するため、防虫ネットを購入した顧客の希望により、サービスとして床下点検を行う。その際あわせて掃除もサービスとして行う。それに続いて、床下点検によって判明した個々の家の状況に応じて、床下換気扇等の商品の必要性を説明し、販売活動を行う。これらの業務、即ち営業と施工をすべて一人で行えるシステムとなっている。このような販売方法等は、原告の独自の方法であり他社にはなく、これが原告の商品がよく売れ、また売上高の低いものの販売をきっかけに、より売上高の高い商品を販売でき、契約から施工まで短時間で済み、工事コストを安くすることができる等の利点となっている。また、原告の防虫ネットは建築後の一戸建住宅ならどのような形にでもその家で速やかに加工して取り付けできる点に独自性があるほか、床下換気扇についても保証期間が一〇年で対応できる原告独自のオリジナル商品を製造させている。こうした特殊性、販売と加工・取付工事を一人で行うこと等から様々な教育を十分行う必要があり、教育体制を整えている。

また、本件競業禁止条項は、原告が取り扱っている商品について原告と同様の販売方法によることの競業禁止条項であるので、禁止の範囲は限定されている。更に、競業禁止期間は三年と限定されており、被告らを長期間拘束するものではない。また、原告及び被告らの営業活動はいずれも近畿地方に限定されている。

更に、販売代理店となると、社員より所得が大きく増加するようになっており、代理店になってまもなくの時期で、平均して五〇万円ないし六〇万円の収入がある。

以上の点を踏まえれば、本件競業禁止条項は有効であり、被告らは平成一〇年五月上旬ころから原告が販売しているのと同様の床下用防虫ネットや床下換気扇の販売を主たる業務とする「三栄住設」で、訴外豊島博之らと共同して右販売活動を行ってきたほか、同年夏ころから平成一一年六月ころまで「サンライズコーポレーション」という屋号で原告と同種商品の販売をしてきた。さらに、被告らは、同年七月二八日株式会社ファスコムを設立し、原告と同種商品の販売を行ったから、本件競業禁止条項に違反したものというべきである。

2  損害額(原告の売上減少と被告らの行為との相当因果関係)

(原告の主張)

原告の南大阪営業所の平成九年五月から平成一〇年四月までの売上実績と平成一〇年五月から平成一一年四月までの売上実績を比較すると、被告らが競業行為をした後者の期間の売り上げのほうが減少している。床下換気扇の販売により原告が販売代理店から取得する代金は一台五万円又は六万円であるから、右各期間における五月から一二月までの間の低下数七五八台に五万円を乗じると三七九〇万円となる。また、株式会社ファスコムでは悪質な販売活動が行われており、これにより、原告の対外的信用が低下した。したがって、原告の損害額が三〇〇万円を下ることはない。

3  原告の権利濫用の有無

(被告近藤の主張)

被告近藤は、募集広告に、諸手当支給、交通費全額支給、各社会保険完備、寮完備と記載されているのを見て、それを信頼して入社した。ところが現実的には、そのような手当、費用の支給はなく、販売代理店となった後も、独立した代理店という触れ込みとは異なり、社会保険などの福利厚生面での保障もなく、収入も不安定であった。他方、原告は、販売代理店契約により、給料、ボーナス等の支払義務及び各種社会保険の負担を免れることができた。こうした点を踏まえると、原告の請求は権利濫用である。

第三争点に対する判断

一  争点1について

1  前提事実

前記争いのない事実等に証拠(以下の各項に掲げるもののほか、甲四、甲五、甲七、甲三一、甲三三、甲三四、乙一、丙二、原告代表者、被告近藤、被告尼崎)及び弁論の全趣旨を総合すれば、次の事実が認められる。

(一) 原告は、床下換気口に取り付ける換気扇や床下用防虫ネットの訪問販売と取付工事を業務とする株式会社であり、原告に入社した社員との間で同社員を原告の販売代理店とする販売代理店契約を締結して営業している。

(二) 原告会社に入社した社員は、入社後すぐに「ネットマン」として「班長」と原告から格付けされている販売代理店の下で働くことになる。ネットマンは、労賃として班長から一日七〇〇〇円、原告から五〇〇〇円の支給を受ける。班長としては、この労賃を支払わなくて済むようにするためにはネットマンができるだけ早く販売代理店契約を締結するよう働きかけをすることになる。被告近藤については、平成九年九月二日に原告会社に入社したが、同月一三日には販売代理店契約を締結している。

(三) 班長は、ネットマンに対し、床下用防虫ネットの販売ノウハウ及びその取り付け方法を指導する。ネットマンとして働いた社員が、原告と販売代理店契約を締結すると、原告からは給料は支払われず、福利厚生に関する処遇や退職金、社会保険関係の制度はない。

(四) 原告は、販売代理店について、一定の成果をあげた者を、主任補、副主任、主任、班長と格付けしていた。被告近藤は、主任補に格付けされた。営業にあたっては、朝の集合は班単位で行うことになっており、遅刻をした販売代理店は、班長に罰金を支払うことになっており、この罰金は、原告会社が預かっていた。そして、朝礼においては、気合い三訓という社訓(一つ、初心を忘れるな初志貫徹、一つ、戸口で迷うな、迷わば飛び込め、一つ摩擦を恐れるな、摩擦なくして進歩なし)を言うことになっていた。朝礼の後は、一人単位で各顧客の訪問をすることになっていたが、終礼のため班の全員が再集合することを義務付けられており、他の販売代理店が集合に遅れた場合は、時間どおりに集合した販売代理店も足止めされ、行動を拘束された。

(五) 原告の販売方法は、まず、床下換気口に取り付ける防虫ネット(一枚二八〇〇円)を販売し、その後、サービスとして床下点検を行い、これによって判明した個々の家の状況に応じて、床下換気扇等の商品の必要性を説明し、販売活動を行うというものであった。床下換気扇は一台二万八〇〇〇円から一四万八〇〇〇円であり、売上高の低いものの販売をきっかけにより売上高の高い商品を販売できる点に原告の販売方法の特徴があった。原告代表者は、販売実績の向上の鍵を握るより販売しやすい床下用防虫ネットを開発することに力を注ぎ、実用新案登録を得ている(甲二〇)。

(六) 販売代理店のうち、主任補以上の格付けのない者は、床下用防虫ネットの販売により一枚あたり一二〇〇円を原告に渡し、残りを販売代理店の儲けとすることができたが、床下換気扇の販売を行うことができず、自ら床下用防虫ネットの顧客を開拓しても、床下換気扇の販売は、自己が属する班の「親」と呼ばれる販売代理店がこれを行い、これが販売できると一台についてネットバックと呼ばれる一万円を親から支給されるにすぎなかった。被告尼崎は主任補に格付けされたことすらなく、右のような地位しかなかった。

(七) 床下換気扇は一台八万八〇〇〇円のものは五万円を原告に支払い、一台一一万八〇〇〇円のものは六万円を原告に支払うことになっていたが、こうした床下換気扇を販売できるようになるためには、まずは一〇〇ポイントを獲得して原告から主任補の格付けをされることが必要であった。このポイントは、一軒の顧客に防虫ネット四枚以上を販売すると一ポイントとなり、欠勤で一〇ポイントのマイナス、遅刻や早退で三から五ポイントのマイナス、一件も契約が取れない時もマイナスポイントとなることとされていた。

(八) 販売代理店には各自の事務所が存在するわけではなく、原告会社の営業所を事務所として利用していた。また、原告代表者は、原告会社の営業所を使わずに自宅を事務所として使って営業を行う場合は、競業禁止条項に違反するとの見解に立っている。

(九) 原告会社には、いわゆる正社員も存在し、主として販売代理店の工事の応援を行うこととされているが、訪問販売の営業は、販売代理店によって行われている。

2  販売代理店の実態について

右1の(二)ないし(九)認定の事実によれば、原告の販売代理店は、原告から格付けをされ、朝礼や終礼のための集合等によって拘束を受けていたこと、販売代理店には各自の事務所が存在していたわけではなく、むしろ各自が事務所を持つことを許容されていなかったことが認められ、こうした事情に、被告近藤は、主任補として格付けされてはいたが、班長と格付けされた証拠がないこと、被告尼崎は、主任補にすら格付けされていないことをも総合考慮すると、被告らについては、実質的には独立性がなく、労働関係法規上原告が負う義務についてどのように解釈するのかはさておき、本件競業禁止条項の解釈をするにあたっては原告の従業員にすぎない立場にあったとの前提でその有効性を検討するのが相当である。

3  本件競業禁止条項の有効性について

競業禁止条項は、憲法二二条に定める職業選択の自由にかかわる条項である。憲法は私人間に直接適用されるものではないが、個々の競業禁止条項の解釈や競業禁止条項が公序良俗に反するかどうかの解釈にあたって、一面で私的自治の原則を尊重しながら、他面で社会的許容性の限度を超える侵害行為に対し、基本的な自由を保護し、その間の適切な調整を図るのが相当である。そして、右判断にあたっては、(1) 競業禁止条項によって守られる利益があるかどうか、(2) 被告らが原告特有のノウハウを知りうる立場にあったかどうか、(3) 競業禁止の範囲が合理的なものであったかどうか、(4) 代償措置が講じられていたかどうかといった点を総合考慮するのが相当である。

これを本件について見ると、(1) については、右1の(五)ないし(七)認定の事実に弁論の全趣旨を総合すれば、原告会社においては、消費者の側から見れば安価な床下用防虫ネットをまず販売し、その後の床下点検を話題にしたセールストークにより高価な床下換気扇を販売するという販売戦略を取るとともに、そうした販路の拡大をするために、販売の入り口である床下用防虫ネットの販売件数を極大化するため、ポイントシステムを採用して、販売代理店にとって高収益が確保できる床下換気扇の販売権限は、床下用防虫ネットの販売に関して一〇〇ポイントを獲得した者にのみ付与する戦略を採用してきたことが認められる。こうした販売戦略自体は、自由競争を旨とする現在の経済体制の下では、社会的に許容されるものである(被告尼崎は、こうした戦略が、顧客に対するサービスには結びつかないとして正当な利益ではないと主張するが、本件は消費者問題として原告会社とその顧客との間の法律関係を争点にする訴訟ではないことや、床下換気扇等を原告の設定する価格で販売することが暴利行為であることを基礎付けるような事実は立証されていないことを踏まえると、法的保護に値しないということはできない。)。なお、原告は商品の特殊性を主張しているが、証拠(甲二〇ないし二二)及び弁論の全趣旨によれば、法的に登録(実用新案)が完了しているのはネットのみで、他は出願中にすぎないし、また、登録済みの実用新案についてもその登録内容が立証されておらず、実用新案登録にかかるネットを被告らが働いていた会社が販売していたかどうかは明らかでない。

次に、(2) については、被告近藤は、右1(四)認定のとおり、主任補として格付けされており、床下換気扇の販売をもなしうることとされていたことや証拠(甲六、被告近藤本人)によれば、被告近藤の妻の兄である篭谷栄一が代表取締役をしている株式会社ファスコムの設立にあたっては、篭谷栄一は床下用防虫ネットや床下換気扇に関する知識がなく、被告近藤が知恵袋となって会社設立作業に関与するとともに取締役に就任していることが認められるから、原告会社における一連のセールストークの方法等の販売戦略全体を把握していたと認められる。他方、被告尼崎は、右1(六)認定のとおり、主任補にすら格付けされたことがないこと、被告尼崎本人尋問の結果及び弁論の全趣旨によれば、原告との販売代理店契約を解消した後に働いていた会社で床下換気扇も販売するようになったが、その会社で元原告の販売代理店で被告尼崎の「親」であった戸井の指導を受けたことが認められることを考慮すると、被告尼崎が、原告と販売代理店契約を締結していたころに床下換気扇の販売方法(セールストーク)や取付方法をマスターしていたとかマスターできる立場にあったとは認め難い。また、右1(二)認定のとおり、班長がネットマンへ一日七〇〇〇円を支給することとされており、販売代理店契約への勧誘が班長の経費節約の面から必ずしも教育が十分でない段階でされている疑いがある。

次に、(3) については、販売代理店契約書第八条には、競業禁止地区を限定する記載がないが、禁止行為の内容として、(ア)自ら経営を行うことや(イ)共同経営をすることや(ウ)代理店として販売を受託することを限定列挙していることが明らかである(甲四、五)。しかし、(ウ)については、原告の販売代理店には様々な格付けがあり、主任補以上の格付けのされなかった販売代理店まで競業禁止の対象とするのであれば、ほとんど全員の労働者に対して地域的に限定を付することなく競業禁止義務を負わせるに等しいと評価せざるをえない。原告代表者は、近畿一円又は関西一円での競業禁止を想定していることは明らかであると供述するが、契約書の文言で明確化しない以上、原告の営業エリアが拡大すれば自動的に競業禁止区域が拡大するといった危険をはらむものであり、地域的限定がされたものとして評価することは困難である。もっとも、地域に密着した学習塾であるとか理容美容業のように顧客の範囲が店舗の存在する地域の周辺に居住する者に事実上限定される場合は、顧客の引き抜きを防止する観点からの競業禁止についてはそうした地域に限定したものであっても目的を達成できると考えられ、これを越える範囲の地域における競業禁止を特約した場合にその特約が合理性を欠き無効とされやすい面があるが、弁論の全趣旨によれば、原告の商品は、地域に密着した商品というわけではなく、右の例のような性格は乏しいから、地域的な限定がないことを過大評価してこの一事をもって本件競業禁止条項を無効と解釈することは相当でない。

最後に(4) については、被告近藤は、床下換気扇を販売できる地位にあり、販売代理店契約締結後原告から給料が支払われず、原告会社に販売代理店に対する福利厚生、退職金、社会保障といった制度がないにしても、それなりの高収入が見込める立場にあったと推認されるが、被告尼崎については、主任補にさえ格付けされておらず、右に説示したとおり販売代理店契約を解消するまでに原告から十分な教育を受けていたとは認め難いことを踏まえると、右に説示した福利厚生等の不存在とあいまって競業禁止義務を課するだけの十分な代替措置があったとまでは評価し難い。

以上の諸点を考慮すると、少なくとも、床下用防虫ネットの販売から床下換気扇の販売までを行っていた主任補以上の格付けの販売代理店については、原告会社における販売方法の特殊性を知りうる立場にあり、同様の方法で販売することを禁止する合理性があることを否定できないし、制限の態様としても、三年間に限定していることに後述する損害賠償請求に関する厳格な解釈を前提にすれば、本件競業禁止条項が適用されることが公序良俗に反した事態になるものとは認め難い。しかし、主任補以上に格付けされたことのない販売代理店については、原告会社における販売方法の特殊性の全てを知りうる立場にはなく、いわゆる代償措置の面でも十分とは認め難いから、期間が三年に限定されていることを考慮しても、不当な制限を加えたものと評価せざるをえない。そうすると、本件競業禁止条項は、一律に無効とするのではなく、主任補以上に格付けされたことのない販売代理店には適用されないと解することにより、職業選択の自由との調整を図ることが適切である。

したがって、主任補以上に格付けされたことのない被告尼崎に対する請求については、その余の点を判断するまでもなく失当である。

なお、被告らは、本件競業禁止条項は、後になってから知ったと主張し、被告近藤及び同尼崎はこれに沿う供述をするが、証拠(甲四、五、被告近藤本人、被告尼崎本人)に弁論の全趣旨を総合すれば、被告ら自身が販売代理店契約書に署名捺印したことが認められ、本件競業禁止条項が難解な日本語で記載されているわけではないこと、契約書を作成する場合書類に目を通すのが通常であることを考慮すれば、右各供述は採用できず、むしろ、右の点に原告代表者尋問の結果を総合すると被告らは販売代理店契約締結当時、本件競業禁止条項を了解していたと認められる。

4  被告近藤に対して命ずべき不作為の内容について

右3に説示したとおり、期間が三年と限定されていることが本件競業禁止条項の合理性を否定できないとの判断の重要な要素となっていることを踏まえれば、期間を限定した不作為を命ずる必要がある。また、原告が近畿地方における競業禁止を求める申立をしている以上、主文もこれを踏まえたものとする必要があるが、近畿(又は関西)という概念は、三重県を含めるかどうかなど、必ずしも一義的に明快な概念ではなく、将来の執行裁判所における判断等に困難を来す可能性があること、本件競業禁止条項が職業選択の自由との調整の問題であることを踏まえると同条項を厳格に解釈する必要があること、原告代表者も本人尋問において近畿の意味につき三重県を含めない供述をしながら、三重県について特に再確認されると三重県も加えるなど曖昧さを残していることを考慮すると、大阪府、京都府、兵庫県、滋賀県、奈良県及び和歌山県内における競業を禁止するのが相当である。

二  争点2について

1  前記争いのない事実に証拠(以下の各項に掲げるもののほか、甲四、甲六、甲七、甲三一、甲三四、乙一、被告近藤)及び弁論の全趣旨を総合すれば、次の事実が認められる。

(一) 被告近藤は、平成一〇年五月三日、原告との間の販売代理店契約を解約し、同月上旬ころから、原告の元販売代理店であった豊島博之が経営する三栄住設で働いたが、三栄住設では原告と同様まず床下用防虫ネットを販売して床下点検を行ってセールストークをして床下換気扇を販売するという販売戦略が採用されていた。

(二) 被告近藤は、同年七月ころから原告の元販売代理店であった戸井が経営するサンライズコーポレーションで働いたが、サンライズコーポレーションでは原告と同様まず床下用防虫ネットを販売して床下点検を行ってセールストークをして床下換気扇を販売するという販売戦略が採用されていた。

(三) 被告近藤の妻の兄である篭谷栄一は、平成一一年七月二八日、株式会社ファスコムを設立したが、その際、被告近藤は取締役に就任した。同社では、原告と同様まず床下用防虫ネットを販売して床下点検を行ってセールストークをして床下換気扇を販売するという販売戦略が採用されていたほか、原告が販売している床下換気扇と同種の床下換気扇の販売(甲三五)、制服、点検カードを用いての顧客情報管理等原告の業務形態と類似する面が多々あった。また、同社の社員が作成した点検カードには、無理矢理契約を取った(甲八の二)とか、顧客の勘違いで契約を取った(甲一一の二)とか、大声を出すとはいはいと言うので契約を取りやすい(甲一二の二)などと記載されており、必ずしも適切とは言えない勧誘が行われていた。

(四) 原告の南大阪営業所の平成九年五月から平成一〇年四月まで(第三期)の売上実績と平成一〇年五月から平成一一年四月(第四期)までの売上実績を比較すると、床下換気扇の販売台数に関しては、年間では八〇七台減少しており、月ごとの傾向を見ると、五月から翌年一月の九か月分の売り上げは、第四期のほうが減少しているが、二月から四月までの三か月分の売り上げは第四期のほうが増加している。これに対して、床下用防虫ネットの販売件数に関しては、年間では五五七件減少しており、月ごとの傾向を見ると、六月、九月から翌年二月までの七か月間の売り上げは、第四期のほうが減少しているが、五月、七月、八月、翌年三月、四月の五か月分の売り上げは第四期のほうが増加している。

(五) 販売代理店契約書第八条では、当該販売行為又は共同営業行為もしくは販売受託行為の差し止め及び損害賠償請求をすることができると規定されており、当該違反行為によって生じた損害を賠償すべきこととされている。

2  損害について

右1の(一)ないし(三)認定の事実によれば、被告近藤は、本件競業禁止条項に違反する行為をしたことが認められ、また、右1の(四)認定のとおり、被告が違反行為をした期間の原告会社の売り上げは減少していることが認められる。

しかしながら、本件全証拠によっても、原告が大阪府、京都府、兵庫県、滋賀県、奈良県及び和歌山県の全エリアでくまなく訪問販売しているとは認め難いところ、原告が訪問販売を実施しなかった地域で販売行為があったとしても、得べかりし利益の喪失があったとは評価し難い。そして、右1の(五)認定の規定内容に、前記一3、4に説示した本件競業禁止条項の厳格な解釈の必要性を踏まえると、販売行為とは、自ら経営者として個人で自営したり代表取締役等になって法人の代表者として経営を行うことを指し、共同営業行為とは共同で自営をしたり取締役等に就任して法人経営に参画することを指し、販売受託行為は、名実共に販売代理店といえるような形で販売行為を受託することを指すと解するのが相当であり、販売受託行為があったことを理由とする損害賠償請求については、当該販売受託行為によって具体的に得べかりし利益の喪失があったことを証明する必要があると解するのが相当である。

これを本件について見ると、被告近藤は、株式会社ファスコムの取締役に就任するまでの間は、他人の経営する法人から販売受託をしていたことは窺われるものの、それ以上の行為があったことを認めるに足りる証拠はない。そして、前記認定の原告会社における販売方法の特殊性及びポイントシステムのねらいを踏まえれば、販売拡大のためには床下用防虫ネットの販売件数を増加させることが重要であると認められるが、右1の(四)認定のとおり、床下用防虫ネットの売り上げは減少していないが、床下換気扇の売り上げが減少している月が少なからず存在し、被告近藤や他の元販売代理店であった者による競業行為とは別の要因で売り上げが減少している面を否定できないことに当時被告近藤が働いていた会社以外にも床下用防虫ネットと床下換気扇を販売している業者が複数存在したとの被告近藤の供述及び当時被告近藤以外にも原告の南大阪営業所に所属した販売代理店であった者が複数名販売代理店契約を解消しており、これが原告会社の売上げ減少の原因になっているとの被告尼崎の供述を踏まえると、被告近藤に対して販売を委託していた法人の営業によって原告の得べかりし利益の喪失がもたらされたとは直ちに認定し難い。こうした点を踏まえると、被告近藤に販売を委託していた法人からの一販売受託行為者にすぎない被告近藤の個々の行為と原告の得るべかりし利益の喪失との間の因果関係を認定することは困難である。被告近藤は、本人尋問で原告会社の販売代理店当時に訪問した訪問先に訪問したことがあったかもしれないと供述するが、これだけでは、具体的な因果関係を認定するに足りない。したがって、被告近藤が株式会社ファスコムの取締役に就任する以前の販売受託行為それ自体と原告の売上げ減少との間の具体的な因果関係を認定することは困難である。そして、右に説示したとおり、本件では、本件競業禁止条項は、厳格に解釈してはじめて合理性を肯定できるものであるから、裁判所が裁量によって損害額を認定することは相当でない。

更に、被告近藤が株式会社ファスコムの取締役に就任した後の原告の売り上げに係るデータは証拠として提出されておらず、その間に生じた相当因果関係のある損害を認定する証拠はないといわざるをえない。また、こうした場合に裁判所が裁量によって損害額を認定することは相当でない。

原告は、株式会社ファスコムにおいて不適切な営業がされていることにより原告の社会的信用が低下していると主張するが、原告会社の販売代理店をしていた当時から他の訪問販売にひっかかっている家には朝日ソーラーの製品があるなどと契約の取りやすい家庭かどうかを判断するためにこうした情報の報告を求められたとの被告尼崎の供述や前記認定の社訓の内容やこうした社訓を公衆の面前で言わされたことがあるとの被告近藤の供述を踏まえれば、右1の(三)認定の事実をもって原告会社の社会的信用が低下したと評価することは困難である。

したがって、その余の争点について判断するまでもなく、原告の被告近藤に対する損害賠償請求は理由がない。

第四結論

以上によれば、被告近藤に対する請求は、競業禁止の不作為を求める限度で理由があるから、この限りで認容し、被告尼崎に対する請求はいずれも理由がないから棄却することとして、主文のとおり判決する。

(裁判官 和久田斉)

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